本部朝勇先生・遺歌
1. 寄ゆる歳波に遺す物ねらん
ただ遺ち行ちゅし我みの手並
歌意:年老いて自分がこの世に残していくものはもう何もない。ただ遺してゆくのは、自分が受け継いだ武の技だけである。
2. 若松とともに若竹ゆ育て
本枝の栄え年と共に
歌意:私は若松(本部朝茂)とともに若竹(上原清吉)を育て御殿手を伝えた。御殿手は大樹の年輪のように、幹も枝も繁茂し、年月とともに幾世までも栄えることだろう。
3. むちぬてる糸にとらわれる鷹ん
怪我んねんむんぬぬんち飛ばん
歌意:鳥モチを塗った仕掛け糸に捕らわれている鷹は、怪我もないのにどうして飛び立つことができないのだろう。相手を無抵抗にして取り押さえる。御殿手の技もそのようなものである。
4. 風にうちなびく若竹のごとに
技やむちむちとかるくかわし
歌意:風に吹かれてなびく若竹のように、相手がどんな攻撃を仕掛けてこようとも、真の技というのは、しなやかに、軽やかにそれをかわして対処するものである
5. 松の根の深さ掘てるうみしゆる
技の奥深さ学でしゆる
歌意:樹齢のいった松の樹の根の深さは実際に掘ってみなければわからないように、技の奥深さも実際に修業を重ねてはじめて知るのである。
6. 按司方の舞方ただおもてみるな
技に技する奥手やりば
歌意:按司方(本部朝勇)の舞う姿を、単なる舞踊と思って見てはいけない。その舞の中には、技のうえに技が重なって尽きることのない武の奥義が秘められているのだから。
上原清吉先生・遺歌
御主加那志武芸 武ぬ舞にぬして
残ちいくしむち 千歳までん
歌意:御主加那志(うしゅがなし、琉球国王)の武芸を 武の舞に乗せて わたくしの本とともに 千年のちまで 残しましょう。
※しむち=本の意。武の舞と著書『武の舞』の両方の意をかけている。
按司加那志武芸 血筋方に残ち
千歳まで栄え 御願さびら
歌意:按司加那志(あじがなし、本部朝勇様)の武芸を 本部家の血筋の方に残して 千年のちまで栄えてくださいと 御願いいたしましょう。

